労働力人口の減少、デジタル化の加速、グローバル競争の激化などを背景に、国内の産業構造は大きく変化しているなか、新たな成長領域への挑戦は多くの企業にとって重要な経営課題となっている。山善のツール&エンジニアリング事業部(以下T&E事業部)は、鉄道、航空、宇宙、造船、インフラ、防衛産業など、国の成長戦略に位置づけられる分野を注視し、未開拓の業種・業界を「新市場」と定義し、開拓を進めている。新市場開拓室の白波瀬に話を聞いた。
「新市場」とは、これから成長が期待されるすべての業界
T&E事業部が掲げる「新市場」とは、具体的にどのような領域を指すのでしょうか。
T&E事業部は、金属加工業などの製造業向けの販売店様を中心にお取引があります。ですので、それ以外の鉄道、学校、自治体、航空、宇宙、造船、国土強靭化、インフラ、防衛産業など、これまでアプローチできていなかった業種・業界はすべて「新市場」と捉えています。中でも注目しているのが、国の成長戦略で指定された17分野に関連する「成長産業」の動向です。開拓先が多いということは、それだけ伸びしろがあるがと感じています。2025年、新市場開拓を専任で行う組織として「新市場開拓室」を立ち上げ、東京・大阪を中心にスピード感を持って新規開拓に取り組んでいます。
全体空調は非効率、鉄道車両整備工場の暑熱対策に導入した“エリア空調”
実際に、新市場開拓が実を結んだ事例を教えてください。
象徴的な事例が、鉄道車両整備工場向けの大型エリア空調機の受注です。2025年6月の熱中症対策の法的義務化を受け、作業場における「WBGT値(暑さ指数)」が注目されるようになりました。昨年はWBGT値を計測する機器の導入の販売が好調だったことを受け、今年の夏は、その数値を下げるための設備投資が活発になると予想しました。
もともと鉄道業界では、どのような暑熱対策が行われていたのでしょうか?
これまで鉄道業界では、スポットクーラーなど作業者一人ひとりを冷やす“点”での暑熱対策が中心でした。鉄道車両の整備工場のように天井が高く面積の広い施設では、建屋全体の空調設備の導入は数億円規模の投資が必要になります。
そこで、山善から「エリア空調」の提案をしたということですね。
はい。WBGT値に関することも交えながら “エリア空調”の情報発信を強化しました。今回の現場では、スポットエアコンは冷却範囲が限定的なうえ、排熱の影響もあり、WBGT値の低減には不十分でした。「エリア空調」であれば、作業者がいる範囲に絞って効率的に冷気を届けられるため、WBGT値を効果的に下げられるだけでなく、費用対効果も高くなります。整備工場のお客様が元々お持ちだった暑熱対策の構想と、私たちの提案がうまく重なり、受注につながりました。
◆T&E事業部の公式サイト「teraido」では、「熱中症対策アイテム特集」を紹介しています。
詳しくはコチラから:https://www.teraido.jp/cm/prod/nettyuu-taisaku2026
商品開発は「共創」から。お客様と一緒につくる喜び
新市場を開拓するうえで、オリジナル商品の開発にも力を入れているそうですね。
はい。先ほどのような既存の仕入先メーカー様の商品に加えて、「安全対策」「環境改善」「熱中症対策」を中心に、オリジナル商品の開発にも取り組んでいます。新市場開拓においては、展示会が欠かせない接点だと考えていますが、そこで力を発揮するのがオリジナル商品です。新市場では、生産財としての「山善」はまだほとんど知られていません。メーカー様の商品をそのままご紹介するだけでは、なかなか「山善」という会社自体に興味を持っていただけないのが実情です。だからこそ、独自性のあるオリジナル商品を展示会の場で紹介することを通じて、「山善」を知っていただこうと思っています。
具体的にどのような商品があるのでしょうか。
代表例がLED警告灯「カヌレフラッシュ」シリーズです。現場の安全性を高めるため、建設現場や鉄道の保守現場などで、注意喚起のために活用されています。
そこから、どのように「カヌレフラッシュ2」の開発につながったのでしょうか。
きっかけは展示会でした。高速道路のメンテナンスを手がけるお客様から、「既存品に比べて価格が抑えられていて、軽くて持ち運びやすい点が非常に良い」という評価をいただく一方で、「もっと輝度を上げてほしい」という要望も寄せられました。
高速道路の工事現場では、車線変更や車線減少を促す誘導灯の光を、背の高いトラックやダンプカーの運転者の目線にまで確実に届ける必要があります。そのため、ライトをロードコーンの内部に設置し、より高く、より広い範囲へ光を届ける運用が大事です。
そこで私たちは、従来の「カヌレフラッシュ」が持つ“扱いやすさ”という強みを維持しながら、輝度をさらに高めた「カヌレフラッシュ2」を開発しました。
実際に使用されたユーザーさんのお声はいかがでしょうか。
フル充電で10時間ほど持つので、一晩中使用できる点もご好評いただいています。展示会でいただいたお客様の生の声を、真摯に反映した商品の一つです。
商品開発において、大切にしていることは何でしょうか。
お客様と一緒に商品を作り上げる喜びを大切にしています。現場の「こうしたい」という声を、山善が一緒に形にしていく。それによって「山善に頼めば、こんな形で商品化してもらえるかもしれない」という期待感を持っていただけたら嬉しいですね。単にモノを売るのではなく、一緒に作り上げるプロセスそのものに価値があると感じています。
リアルとオンライン、両輪で加速する新市場開拓
今後の展示会出展についても教えてください。
引き続き、「緑十字展」「鉄道技術展」など専門展示会への出展を通じて、お客様の声を集めていきます。今年は9月に開催される「緑十字展2026 in 札幌」への出展も予定しています。地域によって主力となる産業や現場で求められる対策は異なるため、北海道・東北エリアならではのニーズを一つひとつ掘り起こしながら、新たな業種・業界との接点を増やしていきたいと考えています。
オンラインはいかがでしょうか。
オンラインでは、T&E取扱商品全般を紹介する公式サイト「teraido」を運営しています。展示会出展商品だけでなく、取扱商品全般の詳細情報の確認やカタログのダウンロードが可能です。パソコン・スマートフォンどちらでも閲覧でき、商品検索のしやすさについてもお客様からご評価をいただいています。
◆T&E事業部の公式サイト「teraido」:https://www.teraido.jp/
最後に、今後の意気込みをお聞かせください。
機械工具の専門商社として80年間培ってきた、仕入先様・販売店様との強固なネットワークと、現場の課題を汲み取り商品に落とし込む力。これらの強みを、新しい市場へと展開していきます。T&E事業部の取り組みが、製造業はもちろん、鉄道・インフラ・防衛産業など幅広い分野の活性化につながり、日本のものづくり全体を元気にする一助となればと考えています。新たな出会いとご縁、そしてご一緒できるお仕事を楽しみにしています。
※このインタビューは2026年7月に行いました。部署名等は取材当時のものです。