昨今、人手不足や人件費の上昇が続く製造・物流の現場で、救世主として期待を集めるヒューマノイドロボット。ものづくりの現場を支える山善も2026年3月から、日本初※となる民間企業のみで運営するコンソーシアム「J-HRTI(Japan Humanoid Robot Training & Implementation/ジェイハーティ)」に参画。8月26日には「J-HRTI 関東データファクトリー」が本格稼働を開始し、ヒューマノイドロボットを現場で最適活用するために不可欠な、フィジカルデータの収集が始まった。山善でヒューマノイドロボットの市場開発を担当する北野が、J-HRTIの現在地と山善が描く未来について語った。
※国内の民間企業のみで構成される団体が運営するフィジカルAI・ロボットデータファクトリーとして日本初

共同事業体で膨大なデータを収集

山善がヒューマノイドロボットに注視し始めた理由は?

私はこれまで、工場の自動化や物流倉庫の省人化に携わってきました。その一方で、「人がやらざるを得ない」といった工程が、まだ多く残っている現実も見てきました。
AIの進化によってロボットができることが急速に広がる今こそ、これまで人が担ってきた仕事をヒューマノイドロボットで置き換えられないか。実装のためには、現場導入を推進するコンサルティングとサポートが必要ではないか。そう考え、2年ほど前からプロジェクトを進めてきました。

「J-HRTI 関東データファクトリー」では、具体的に何が始まったのでしょうか。

今回、コンソーシアムを組織し、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、RX(ロボティクス・トランスフォーメーション)の先を行く、PX(フィジカルAI・トランスフォーメーション)の一歩を踏み出せたことは画期的だと思います。
医薬品、物流、リース、機械工具の専門商社である当社など、異業種の企業が参画するデータファクトリーでは、ヒューマノイドロボットの台数を、現在の35台から今後は約40台に拡大する予定です。各社が自動化したい作業を細かく分解すると、最大公約数的な、共通する動きが見えてきます。そこで、さまざまな現場で活用できる汎用性のある作業データの収集を始めました。また、特筆すべきは、特別なロボット技術者ではなく、年齢や性別も多様なスタッフが実際にロボットを動かし、学習データを蓄積していることです。パートや派遣社員を含む、実際の現場で働く人材を想定した動きを学習させています。2026年度内の社会実装を視野に入れながら、活動しています。


ヒューマノイドロボットが段ボールを持つ様子

ものづくり企業にとって不可欠な作業を昼夜問わず稼働することが可能に

ものづくりにおける汎用的な動作を構築

実際、どのような企業へのヒューマノイドロボットの導入を想定していますか。

基本的には、ものをつくり、ものを運ぶ、あらゆる企業が対象になってくると思います。工場や倉庫には、部品や材料を運んだり、包装資材を補充したり、空箱を回収したり、次の工程の準備をしたりといった「水すまし作業」が多数存在します。これをヒューマノイドロボットが担えば、人は人にしかできない仕事に集中できます。また、人には休憩や勤務時間がありますが、ロボットにそれは必要ありません。昼間は人と一緒に働き、夜間はロボットだけで作業を進めることができれば、同じ設備で生産性を高められます。

実際に、導入を希望する企業からの問い合わせはありますか。

ある大手メーカーから、将来的な部品組み立て工程での活用も視野に、まず導入したいというご相談がありました。現在はその第一歩として、仕分け作業に必要なデータを収集しています。
外部から届く多種多様な部品をヒューマノイドロボットが荷降ろしし、AMR(自律走行搬送ロボット)が4階建ての建屋内にある各作業場へ運搬する組み合わせをご提案しています。この企業では繁忙期と閑散期の波が激しく、人員を安定的に確保しにくいという課題があります。ヒューマノイドロボットとAMRの連携は、その解決策としても期待しています。


「学習データを積み重ねれば、職人並みの作業が任せられる自律動作を身につけるでしょう」と語る北野

「学習データを積み重ねれば、職人並みの作業が任せられる自律動作を身につけるでしょう」と語る北野

導入コストは、企業にとって大きなハードルになりませんか。

新しい設備を導入する際には、「いくらかかるのか」だけではなく、「投資をどう回収するか」が重要です。
ヒューマノイドロボットも「購入」だけでなく、レンタルやリースなど、導入企業の状況に合わせた選択肢をご用意する予定です。比較的低い月額から始め、できる仕事が増えるほど利用価値も高まっていく。そうしたリカーリングビジネスの仕組みを構築できれば、「大きな設備投資をして、一気に回収する」という考え方だけでなく、「必要な仕事から段階的に導入する」という選択肢が生まれます。

導入はゴールではなく自動化のスタート

山善ならではの役割は、どこにあるのでしょうか。

ヒューマノイドロボットが製造現場の課題をすべて解決するわけではありません。産業用ロボットや協働ロボット、AMR、コンベヤーなど、それぞれ得意な役割が異なります。
山善はこれまで、さまざまなメーカーの機械や設備を扱い、組み合わせることで、実際の製造現場に合わせた最適なソリューションをご提案してきました。その知見を生かし「ここはヒューマノイド」「ここはAMR」「ここは専用機」と、現場環境やコストに合わせた最適な組み合わせをご提案します。ロボットを販売すること自体が目的ではなく、導入企業の課題をどう解決するかを考えることが、山善の役割です。

導入後もサポートも受けられるのでしょうか。

もちろんです。導入前には「うまく動かなかったらどうするのか」「部品交換はできるのか」といった不安もあるでしょう。山善では、メンテナンス、部品供給、問い合わせ対応まで含め、安心して使い続けられる仕組みづくりを進めています。

中小企業でも導入は可能だと思いますか。

企業規模にかかわらず、誰もが使いやすい仕組みにしていくことが、私たちの大きなミッションです。現時点では、ヒューマノイドロボットが現場で担える仕事の可能性を広げている段階です。データが蓄積され、ロボットの頭脳が賢くなれば、同じ機体でもできる仕事は増えていきます。導入した時点が完成ではなく、使いながら能力を高めていくという発想です。
将来、ある工場で学習したデータを別の工場でも活用できれば、新たな現場でゼロから教える必要がなくなります。「人を採用する代わりにロボットを導入する」ということも、より現実的になるでしょう。ヒューマノイドロボットを導入したかどうかで、3年後の企業の在り方は変わってくると思います。


最後に、ロボットと歩む未来への期待をお願いします。

これからは、ロボットを管理し、人とロボットを組み合わせて現場を動かす、新しい職場が生まれてくるでしょう。一方で人は、人にしかできない、より付加価値の高い仕事に集中できるようにもなります。
重要なのは、技術の完成を待つのではなく、まず現場で使い、データを集め、改善を重ねることです。今まさに生まれているこの波に乗ることが大切だと思います。

山善が目指しているのは、単に新しいロボットを販売することではありません。人手不足という現場の課題に向き合い、「ものづくり大国・日本」を復活させることです。この大きな目標に向けて、ヒューマノイドロボットを“現場を救う技術”へと育てていきたいと考えています。

※このインタビューは2026年9月に行いました。部署名等は取材当時のものです。