昔のくらしから学ぶ! 10月のテーマ「リラックス術」 昔の知恵が今も残る日本独特のリラックス術。夏の疲れをゆっくり癒しましょう。

文: 和文化研究家 三浦康子

和室は究極のリラックスルーム

和室は究極のリラックスルーム

心や体の緊張がほぐれたときに、人はくつろぎを感じます。この状態こそ“リラックス”。私たちの暮らしには、昔からリラックスに適した場所がありました。

それは和室です。和室は木、畳、和紙、土などの自然素材で構成されており、その色には独特のトーンがあります。この和室本来の色が、ちょうど人間の肌の色と同じトーンになっているため、人はそこにぬくもりを感じてなごみ、筋肉の緊張が緩んでリラックス出来るのです。今でこそ色彩学的に立証されていますが、昔の人はそれを肌で感じていたのかもしれません。

さらに、自然素材ならではの肌ざわりや香りもリラックスの素です。私たちも座椅子にすわって足をのばせば、畳の感触や香りになごむはず。「和」には「和み」(なごみ)の精神が息づいているのです。洋室の暮らしに慣れた今だからこそ、和室でのリラックスをぜひ試してみてください。

世界に誇る和みの文化

世界に誇る和みの文化

そして、日本にはリラックスできる文化がたくさん生まれました。例えば、お風呂。湯船につかったときのあの開放感は、誰もが感じる至福のひとときでしょう。

世界には入浴習慣のない国がたくさんあり、シャワーですませる国も多いのですが、高温多湿な日本ではお風呂が欠かせず、歳時記にあわせて丑湯(桃湯)、しょうぶ湯、ゆず湯といった薬湯を楽しむようにもなりました。薬湯には神事的なみそぎの要素もありますが、入浴をたんなる清潔を保つ場にせず、健康促進や風情を楽しむ場にしてしまったのは、日本独特のこと。各家庭に風呂のない時代には、共同風呂や近所にもらい湯をするのが当たり前で、くつろぎながら人間関係も深めていきました。

また、海外版リラックス術といえるアロマテラピーは香道、ティータイムは茶道、フラワーアレンジは華道というように、日本ではそれぞれが奥深い“道”となっており、いずれも世界中から称賛されています。

昔の人も芸術・読書でリラックス

昔の人も芸術・読書でリラックス

余暇を楽しむのもリラックスの近道です。現代は夜長といえば秋となりますが、昔は日が落ちれば仕事をおしまいにし、家族で夕食をとるのが当たり前でしたから、暇をもてあますほど夜は長いものでした。

今なら好きな映画や音楽も自宅で手軽に楽しめますが、昔はそうはいきません。江戸時代でいえば、歌舞伎が映画であり芸能界で、浮世絵は役者のブロマイド。名場面や名セリフをものまねする「声色」(こわいろ)も大流行し、手とり足とり教える師匠までいたそうですから驚きです。そうして人々は好きな役者の浮世絵を眺めては悦に入り、声色をみんなに披露して楽しんでいました。声色がうまいと町内の人気者にもなりましたから、歌舞伎や浮世絵をじっくり観ては練習していたのでしょう。

また、読書は見聞を広げる一番の手段でした。子供たちは寺子屋に通って文字を習い、「徒然草」のような古典や、12か月の往復書簡でさまざまな一般常識が学べる「庭訓往来」(ていきんおうらい)など、幅広い内容の書物に親しみました。当時の書物は手書きや木版でしたから、読書はとても貴重で楽しい時間だったのです。こうしてみると、芸術の秋も読書の秋も、江戸っ子のお茶の間にはすでにあったんですね。

さて、今日は何でリラックスしましょうか?江戸っ子の暮らしに思いをはせながら、芸術鑑賞や読書にいそしむのも乙なものかもしれません。