昔のくらしから学ぶ! 3月のテーマ「庭づくり」 日本の庭は人の心と地球を潤し、さらに暮らしも快適にしてきました。

文: 和文化研究家 三浦康子

日本庭園のおもしろさ

日本庭園のおもしろさ

庭を眺めて酒をのみ、一句詠む。そんな優雅なひとときを過ごすのも、日本庭園ならではの楽しみ方で、ゆっくり眺めて考えごとをしたり、散策するのにも打ってつけでしょう。

そもそも、日本庭園には他の国ではみられない、独特の世界観があります。築山(つきやま)、滝、池、流水、石、灯篭、橋、樹木などで構成されていますが、いずれも自然の法則に反することのないように配置され、さらに、見えないものを感じさせたり、あからさまに見せないなど、宗教的・思想的な技法が多いのも特徴です。寺院に名高い庭園が多いのも頷けますね。

また、とりわけ重要視されたのが、水です。石組の妙で美しい流れを作り、流れの局部を強調しますが、流れのもとは必ず隠されており、灯篭はものの姿を柔らかく美しくみせる照明というだけでなく、流れのもとを隠す役目も果たしているそう。水のない庭を「枯山水」(かれさんすい)といいますが、垂直に模様がはしる石で滝を表現し、敷きつめた白砂や小石で水面を表しています。

庭で楽しむ音の風情

庭で楽しむ音の風情

そして、昔の人は水の生み出す音にもこだわりました。水の流れるせせらぎの音、池で魚がはぜる音、流れ込む水の重みで竹筒が傾く「ししおどし」の打響音。これらの音が耳に入るだけでも、庭の情景が浮かぶでしょう。

さらに、排水の音にまで風情を見出し、「水琴窟(すいきんくつ)」を作りました。日本庭園には蹲踞(つくばい)という手洗い場があり、茶室などに入る際、手や口を清めます。低い位置にあるため、つくばう(しゃがむ)ことからその名がつきましたが、この蹲踞の排水を地中に埋められた水がめに落ちるように工夫し、水滴が落ちるたび琴の音色のように反響するのが「水琴窟」。庭の目立たない脇役に美しい音を与え、庭園の名脇役にしてしまったのですから、じつに心憎い演出です。昔ながらの水琴窟は寺院や茶室の庭に多いのですが、年月を経て、おうちの方すらその存在に気づいていない場合もあるので、ひょっとしたらご近所の庭で眠っているかもしれませんよ

いずれも日常を邪魔しない小さな音で、耳を澄ませば聞こえてくる、和やかな音ばかり。さらに、野鳥の声、虫の音、風の音などが加わり、心地良いハーモニーを奏でます。

庭がもたらす快適な暮らし

庭がもたらす快適な暮らし

こうして心を潤すばかりでなく、暮らしを快適にするのも庭の力です。たとえば、庭木の選び方ひとつにも知恵があり、家の南側に落葉樹を植えれば、夏は葉を茂らせて木陰をつくり、冬は葉が落ちて日ざしを遮ることがありません。近年注目されている緑のカーテン(夏の窓辺でツル性の植物を育てて葉陰をつくり、室温の上昇を抑える)も、地球に優しいエコライフの知恵ですね。それから、北側に日陰に強い常緑樹を植えたり、風の強い場所に防風用の樹木を植えたりするのも、昔ながらのノウハウです。

また、庭付きの家はいつの時代も憧れの的ですが、土地がないからと諦めないのもさすがです。小さな面積で楽しめる坪庭は、光や風をとり入れる役目を果たし、視界も広がり風情も添えるなど、素晴らしい効果を生みだします。そのお手本が京の町家の坪庭で、うなぎの寝床のような建物をじつに快適にしており、現代建築でも真似する家が多くなりました。次々と現代版の庭づくり技術が開発され、マンションのベランダやビルの屋上でガーデニングや家庭菜園を楽しめるようになったのも、庭に寄せる思いを物語っています。

四季のある国にいるのですから、我が家で季節を感じたいと思うのは当然のこと。人と地球を潤す庭が、今後ますます広がって行くことでしょう。