昔のくらしから学ぶ! 2月のテーマ「空間利用術」 日本の家の限られた空間を、上手に利用してきた昔の知恵やアイテムとは?

文: 和文化研究家 三浦康子

空間をフレキシブルに使う知恵

空間をフレキシブルに使う知恵

かつて「うさぎ小屋」と揶揄されたほど日本の家は小さめですが、昔から限られた空間をとても上手に使ってきました。その大きな理由のひとつが、靴を脱ぐ文化です。そのおかげで室内のどこにでも座れますし、寝そべることもできます。靴をはいたままだと椅子やベッドが必要で、その家具のスペースを確保しておかなければいけません。

たとえば、江戸時代の長屋は間口が九尺(約2.7m)、奥行きが二間(約3.6m)しかなく、4畳半の部屋と約1畳半の土間があるだけです。ここに家族全員が暮らしていましたが、昼間はちゃぶ台を出し、夜は布団を敷けば生活できますから、茶の間も寝室もすべて一部屋で事足りたのです。

武家のような大きな屋敷となれば部屋数も増えますが、そのぶん人の出入りも多くなります。そんなとき、開閉ひとつで個室にも大広間にもなる襖はとても便利で、壁・間仕切り・扉の機能を併せ持つ襖の素晴らしさを実感します。

空間に意味をもたせる床の間

空間に意味をもたせる床の間

昔の人は、このように同じ空間を臨機応変に使いこなすばかりでなく、空間に意味を持たせる術(すべ)を作りました。代表的なのは、床の間です。

床の間は、室町時代の僧侶の住まいで仏画の前に香炉・花瓶・燭台の三具足(みつぐそく)を並べる神聖な場として始まり、貴族や武家の住まいで部屋を荘厳化する場として発展して、上座に座る人(城なら殿様、武家なら主人)の格式を示すものとなりました。やがて、庶民の間でも床の間をもつことが憧れになりましたが、江戸時代にそれは贅沢だと規制され、明治以降は客間に設けるようになったのです。

そのため、現代でもお客様は床の間のある部屋に通され、床の間のあるほうが上座とされているわけですが、床の間ひとつで場に品位を与え、特別な感情を抱かせるのですから、文化とはすごいものです。

家具にも施された知恵

家具にも施された知恵

こうした巧みな空間の使い方は、家具にもあらわれています。たとえば、文机(ふづくえ)。その名の通り読み書きをするための文机は、脚を折りたたんで収納することができ、使いたい場所へ手軽に移動できる便利な家具で、好みの場所が書斎になります。もともと平安時代に僧侶が写経をするために登場し、江戸時代に寺子屋ができてから庶民の家でも使われるようになりました。その後の西洋化にともないデスク&チェアのスタイルが主流となっていきましたが、圧迫感がないことや、床に座って使うスタイルが支持され、今ではローデスクと呼ばれて人気家具のひとつになっています。洒落た座椅子に座ってパソコンを使う、まさにそれは平成版の文机といえるでしょう。

もうひとつ、工夫を凝らした例がたんすです。なんと、昔は車長持(くるまながもち)と言うたんすがあり、車輪がついていたのです。現在人気のキャスター家具は、室内の移動を楽にするためのものですが、昔は火事が多かったため、いざというとき外に持ち出すためのものでした。ところが、江戸で大火があったとき、みんなが一斉に持ち出して大混乱になったため、幕府が車長持を禁止してしまいました。しかし、大切な家財道具を持ち出せないと困るということで、たんすに棹(さお)を通して担ぐようになりました。だから、たんすのことを一棹、二棹と数えるわけで、和だんすには棹を通す金具がついており、大切な財産を入れたことから「たんす預金」という言葉ができました。

時代とともに形は変わっていきますが、限られた空間を上手に利用し、臨機応変に対処する知恵を私たちは授かっているようです。